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ごあいさつ

代表取締役社長 中野 敏光

日頃よりご高配を賜り深く感謝いたします。

私が事業を始めてから、今年の7月で40年が経過します。40年の歳月の中で、経営環境は大きく変化しました。この変化する時代の中で、同じ事業領域に留まり続けることのリスクを感じながら、日々事業を行っています。世の中には必要とされる事業と、過去には価値があったものの、今は価値を失ってしまった事業があり、世の中に必要とされ続けるためには、自らの形を常に変えていくことが必要だと考えています。
これまで売上高1000億円、経常利益100億円の企業を目指して長期計画を立て、事業に邁進してまいりましたが、ここ2~3年のうちに到達することは、難しいと判断しました。株主の皆様に対しては非常に申し訳なく感じております。数年前のコロナ禍、急速に進展するDX、生成AIの進化、少子高齢化、想定以上の事業環境の変化に対してキャッチアップはしてきましたが、この環境下で先んじて事業を伸ばしていくことができませんでした。そのため、この目標を達成することは困難と判断し、新たに構想を練り直すことにいたしました。

人材派遣は、日本ではオイルショックの人余りのときに生まれたビジネスです。企業からの需要と働く人の供給のバランスをとる事業ですが、供給がなければ成立しないビジネスモデルです。「専門性の高い職種で限られた期間だけ支援を行い、高報酬を支払われて一定期間働く」というのが、本来の人材派遣の在り方ですが、日本においては、そのような形にはなりませんでした。正社員が優位とされ、派遣社員は「非正規」と扱われる日本型の人材派遣モデルでは、「正社員になりたいが、派遣で働くしかない」という人たちが労働市場に多数存在していることが、人材派遣成立の条件なのです。現在、この人材派遣成立の前提条件は崩れつつあると考えています。
そのため、派遣会社は人材確保のために報酬を上げ、その上昇分を派遣料金に転嫁します。企業は、高い派遣料金を支払う価値があるのかと考え、派遣サービスの利用を控え、直接雇用の契約社員や正社員を採用していく。将来的な人手不足も相まって、このような現象が加速する中、日本型の人材派遣モデルは成立しなくなっていくのではないかと私は考えています。同業他社において、人材派遣から人材紹介事業や求人媒体運営にシフトしていく会社が見られるのも、その予兆だと捉えています。

CRO業界においても同様です。製薬会社の中での手続き業務を外部委託したようなものであるため、業務は人海戦術で行われていました。そこでDXの推進とAIの導入が進めば、製薬会社がCRO会社に仕事を発注することは少なくなり、CRO会社は業務効率化を行うだけではなく、根本的にビジネスモデルを再構築していく必要に迫られてくると考えています。

これらの状況を踏まえて、これからの事業について考えていることは大きく二つあります。一つ目は、人材派遣事業において、継続して、お客様に価値を提供し続けることです。当社の事業では、単なる「仲介」ではなく、「ジョブ支援」として顧客満足度の定点確認と対応、派遣スタッフの就業フォローを行っています。この「ジョブ支援」は、お客様・派遣で働く人にとって大きな価値だと考えています。
利益率が低くなる中で事業の継続を行うためには、「構え」を変えることが必要です。「仲介」の機能を、プラットフォームを通じて行うことで、販管費を下げ、それを原資に「派遣で働くことを望む人」に対して適切な報酬を支払う。プラットフォームで行うことと、人にしか行えないサービス「ジョブ支援」等とを共存させる新しいサービス提供の形を作り、価値を提供していきます。

また、人材サービス事業において、5月に派遣会社一元管理サービスを開始し、理学系研究職派遣をご利用ではないお客様へ、利便性の高いサービスの提供を行っていくという挑戦を始めました。当社のグループ会社であるネゾット株式会社が開発した「ドコ1」というシステムを、同じくグループ会社のドコ1株式会社が運営します。従来の人材派遣市場に対して新しいサービスを提供することにより、市場の開拓を目指していきます。人材派遣業界の中で、継続してサービスを提供し続けることで、現在の激しい競合状態から結果として抜け出し、再度、高利益率を確保できるビジネスモデルを構築していきます。

もう一つは事業領域の転換です。
当社は、過去に事業領域を転換したことにより、大きく飛躍をした経験があります。それは、事務職派遣から研究職派遣への転地でした。研究職派遣市場の開拓により、成⾧を重ねてきましたが、強みとしてお客様から評価されたのは、事務職派遣の時代に構築した、派遣サービスの注文をいただく際の業務取材や人選の仕組みであり、フォローの制度でした。そして培ってきた強みが事業領域の転換の推進力となりました。
今回は、過去の事業領域の転換と比べて、より遠いところへの転地を考えています。現在の人材サービス事業の領域ではなく、プラットフォームの運営会社になることで、収益を上げるという事業への転換です。自分たちで「doconico」「ドコ1」というプラットフォームを開発してきた経験がありますので、事業転換を支えるバックボーンとなるのは、自社で企画し、自社で開発できるという仕組みとノウハウです。過去の転地と同様に、これまで培ってきたものを梃子(てこ)にして、転地を行います。

激変していく事業領域における事業継続と、新たな事業領域への転地という節目とも思えるこの時期を乗り切るためには、低成⾧・減益を甘んじて受け容れる必要性にも迫られています。事業方針を決めるにあたり、一時的に株主の方のご期待にそえないことが起こってしまいます。私は、事業を伸ばしていきたいと考えていますが、どうしても成長に向かって足踏みをするときがあります。決して1000億円企業になるという具体的目標を諦めたわけではありません。ここ1年2年の短期間ではなく、事業転換の成果が出るまでを、長期的に見ていただきたく、お願い申し上げます。

事業を行っていく上で大切なのは、お客様、派遣スタッフ、CRO事業で働く人たち、従業員、お取引先、地域社会、そして株主の方々の利益を考えていくことです。企業価値とは、時価総額だけではなく、収益性、安全性、生産性、成⾧性という企業自体の評価、顧客満足度を表す市場占有率、さらには非財務的価値等も含めて、総合的に捉えるべきものではないかと思います。これらについて、40年を迎えるにあたり、改めて認識し、深く考えるようになりました。このような考え方でこれからも事業を行っていきたいと考えておりますので、何卒、ご理解の上、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2025年5月

代表取締役社長

中野 敏光